私が以前から政府に提案していた「食育」は、平成17年に念願かなって「食育基本法」という形で施行されました。翌年には「食育推進基本計画」が5ヵ年計画で実施、現在は第二次5ヵ年計画に移行し、食育促進をめざして国策は徐々に進行しています。計画では家庭・学校・社会での教育方針や目標値などが設定されていますが、しかし、肝心の食育への理解はまだ十分とはいえません。実際、一般の方に食育を知っていますかと聞いたところ、72.3%の人が「知っている」と答えてくれましたが、その内容については、24.3%の人が「親子料理教室」や「農業体験」と回答しました。確かにこれは食育の一環ではありますが、実はこれらはほんの一部です。食育とひと言で言ってもその内容は幅広く、一つひとつ挙げていくと200以上にもなります。
私はこれまで数々の講演やメディアを通じて、食育の必要性やねらい、具体的な実践方法などについて話してきました。しかし限られた時間やスペースの中ではそのすべてに言及することはできません。そこで食育の内容を整理し、「食育の三本柱」として集約しました。まず、第一の柱は「安全・安心・健康な食生活のための"選食力"」。第二の柱は「食卓での"共食"の重要性」。そして第三の柱が「食糧問題や環境問題」です。食育基本法のねらいや食育推進基本計画の主旨も、この三本柱に要約することができます。
「食」と聞くと栄養バランスや料理方法ばかりに目がいきがちですが、第二、第三の柱をご覧いただいてわかるとおり、食卓を囲む際のマナーやコミュニケーション、さらには食材を取り巻く食料自給率や貿易問題、温暖化に代表される地球の環境問題まで、「食」には多くの要素が複合的にかかわっており、そのため食育の内容も多岐にわたるのです。そんなに広いと難しいイメージをもたれるかもしれませんが、食をとおして健康や人間関係、文化、環境など、身の回りで起きていることに耳を傾けることが、私たちの体と心の成長につながり、ひいては世界の人々の生活を守ると思っています。
記事提供元:『さわやか』2013年春号 制作/社会保険研究所