卒業生の声 池ノ内 佳苗さん
Graduate's Voice
管理栄養士と調理師の知識を生かし、Gi(血糖改善)メニューを提供。
社食やデリで健康づくりをサポート。
株式会社シュガコン 代表取締役
池ノ内 佳苗さん
調理師本科1年制卒業
管理栄養士、起業家。ダイエットカウンセラーや料理講師を経て、現在は「ヘルステック×食」の会社(株)シュガコンを経営。血糖コントロールをオンラインでアドバイスするサービスや、GI値をテーマにした日本初の飲食店「Gi Deli」を銀座5丁目にオープンし、話題に。インスタグラムのフォロワーは1万人。
いまや多岐にわたっている、料理の仕事。これまでにない食のビジネスを開発し、新境地を目指す人も少なくない。服部栄養専門学校の卒業生、池ノ内佳苗さんもその一人。見た目よくおいしい料理を楽しみながら、気がづくと健康になっている。そんなライフスタイルを広げようとするバイタリティあふれる起業家だ。
「もともと食べることが好きで、美や健康にも関心がありました」という池ノ内さんは、大学で管理栄養士専攻に進み、その後、服部栄養専門学校の本科に通って料理を学んだ。管理栄養士と調理師、二つの資格を生かしてダイエットカウンセラーや料理講師をしているうちに、これらを合体させた「美と健康によくて、しかも見た目よくおいしい料理」を提供したいと考えるように。会社を立ち上げ、経営者となった。現在社員2人、事業に関わるスタッフ20人を抱える。
「ひと言で言えば、データをもとに健康と美容にアプローチするヘルステック事業です。最終的な目標としては、世界中に増え続ける糖尿病を食事で予防したり、減らしたいと考えているんです」
カウンセリングで池ノ内さんを訪れるのは、高い血糖値に悩む人々。放っておくと深刻な糖尿病への引き金になりかねない。しかし後天的な2型糖尿病は、たとえば食事の最初に食物繊維の多い野菜を食べるベジタブルファーストなどを習慣化することで、予防も可能だ。アドバイス自体は簡単なのだが、忙しいビジネスパーソンにとって難しいのは、それを実行し、習慣化すること。 そこで池ノ内さんが導入したのが、数字で成果が見える機器だ。アメリカ・アボット社製の、血糖値の変動がわかる医療機器である。腕に専用アプリと連動するパッチを貼り、食事の写真をアップすると、血糖値の変動がグラフとなって可視化される。「白米を食べるとこれだけ上がるが、玄米ならあまり上がらないんだな」と顧客自身も数字で確認、納得することができる。そのデータをもとに、管理栄養士が顧客にアドバイスしたり相談に乗ったりする仕組みを作り上げた。オンラインなので、忙しい人でも無理なく血糖値の管理ができる。
さらに、今現在は健康に不安のない20代、30代の人達にも血糖値のことを知ってほしいと銀座5丁目にオープンさせた店舗が、おしゃれな「Gi Deli」。GI値をコンセプトにした日本初のデリカテッセンとして注目されている。
「最初からうまくいったわけではありません。GI値を真正面から打ち出すと、さっぱりしすぎておいしくなさそう、と敬遠されがちなこともわかりました。特に女性には〝見栄えがよくてインスタグラムにのせたくなる、食べるとおいしい料理がたくさんあって、気がつくと健康になっている〟という流れの方が自然に受け入れてもらえますね」
法人からの依頼で作っている「眠くならないお弁当」も好評だ。体重や血圧と同じように、大事な血糖値。見栄えよくおいしい料理を楽しみながら、その重要さに気づいてもらえたらと、池ノ内さんは話す。
服部に通っていたから、今がある 服部栄養専門学校に入学したのは、23歳の時。すでに管理栄養士として仕事を広げる中で、健康にいいレシピを自ら開発し、ビジネスに繋げたい思いがあった。
「『料理の鉄人』の服部幸應先生が校長先生の学校だということと、有名店で活躍されているシェフもおられ、華やかだったんですね。食の世界で自分がやりたいことを考えると、インフルエンス力を身につけるのも必要だと思って、迷わず服部栄養専門学校を選びました。マスターコースでは有名店の料理人の方から直接学べて刺激になりましたし、経営論などの授業も今に役立っています」
卒業後も、服部栄養専門学校で仕事の相談にのってもらったり、人手が足りない時に求人のサポートをお願いするなど、何度も助けてもらった。池ノ内さんもキャリアをテーマに授業を持たせてもらい、母校に恩返しをすることがある。いつでも支えてもらっていることへの感謝と安心感があると言う。
池ノ内さんに、今後の目標を聞いてみた。「GI値と血糖コントロールを世の中に訴求していきたいですね。今企画しているのは、健康と食について学べるコミュニティ・スクールを開くことと、銀座のGi Deliをいくつかのオフィス街でも展開することなどです。繋がりのある50人ほどの管理栄養士さんに、持っている能力を生かしてGi Deliの拡張を手伝ってもらえないかと思案中です」
6月に池袋で開かれる大規模な健康フェスにも登壇。大学でも授業を担当する予定があり、さらに専門的な知識が必要になる。ビジネスを円滑に回すための組織づくりの勉強も必須だ。健保組合や自治体とも繋がりができないか考えているそうだ。やりたいことが増えるほど、資金のこと、雇用のこと、経営者にとっての壁はますます高くなるが「チャレンジすることが好きなんです。会社を経営する重責や不安で眠れない日々もありましたが、おかげで補助金申込みの手続き方法がわかった! とポジティブに捉えるようにしています」。
食を通じて誰もが健康になれるよう、道を切り開いていきたい。笑顔でそう話す。
※料理王国「2024年6月号」に掲載された記事です。